市場とは

経済行動を決定づける経済的決定には,個人による私的な意思決定と,政府による公的な意思決定があります.自由な市場経済を前提とする経済では,私的な意思決定は「市場」に任されるべきだと考えられています.

経済学における市場とは,単に魚市場や株式市場のような具体的な場所を指すだけでなく,取引すべてを市場といいます.魚市場などでは,セリが行われますが,スーパーに買い物にきている人が店員と価格交渉をすることはありません.しかし,スーパーでも商品が不足すれば価格は上昇し,商品が余れば価格は下落します.経済的決定を市場に任せる経済を市場経済といいます.

自由な競争のある市場経済では,個人は,自分たちの欲求を満たすような選択を行い,生産者は.利潤を最大化するような選択を行います.そのためには,生産者は,何を生産すれば利潤が得られるか,そして利潤を最大化するためには,どんな技術を選択すればよいかを考えなければなりません.したがって,経済的決定を市場に任せることで,「何をどれだけ生産するか」,「どのように生産するか」,「誰がどのような過程を経て経済的決定を行うのか」という問題に対する答えを与えることになります.

市場経済は,「誰のために生産されるのか」という問題に対する答えを与えていますが,その答えは,市場経済では,働いた労働者には多くの所得を,あまり働いていない労働者には,少ない所得しか分配しません.それゆえ,すべてを市場経済に任せると働くことができない子供や老人は所得を得ることができません.そこで,政府は社会的弱者を救済するために,さまざまな社会福祉政策を行うべきであり,これこそが,政府の果たす役割なのです.

経済主体

消費者や生産者のような経済活動を行う主体を経済主体といいます.資源の希少性という事実から,個人や企業は選択をしなければなりません.このとき基本的な経済モデルでは,個人や企業は合理的選択を行うという仮定を設定します.合理的な選択は,自己の目的がはっきりしており,その目的を達成するための方法も正しく理解しているならば,彼は一貫した方法で行動するであろうという仮定でです.

個人にとって合理的選択とは,自己の利益を最大にするような選択を行うことを意味し,企業にとって合理的選択とは,自己の利潤が最大になるような選択を行います.

市場の種類

市場経済は,個人は,生産者から生産物を購入し,生産者は,生産要素(すなわち原材料)を使って生産物を生産します.このとき,市場は,次の3つに分類することができ,個人と企業が相互に依存しあっています.

  1. 生産物市場:生産者が個人に生産物を売る市場
  2. 労働市場:生産者が生産要素として労働サービスを購入する市場
  3. 資本市場:生産者が生産要素として資金を調達する市場

個人は,3つの市場に深くかかわっており,生産物市場では消費者とよばれ,労働市場では,労働者とよばれ,資本市場では,投資家とよばれています.

完全競争市場

常に競争状態にさらされ,効率的な取引が行われている市場を完全競争市場といいます.完全競争市場は,次の5つの条件を満たさなければなりません.

多数性
市場には多くの消費者と多くの生産者が存在し,消費者や生産者の一人一人の取引は市場には影響を与えません.つまり,価格交渉をすることなく市場で決められた価格にしたがって消費者と生産者は取引します.
同質性
市場で供給される製品は完全に同質な製品でなければなりません.たとえば,A社製造の冷蔵庫とB社製造の冷蔵庫には品質的に何の差もないことをいいます.
匿名性
特定の消費者,生産者の名称などによって差別的に取り扱うことはありません.たとえば,製品が同質であっても,A社製造の冷蔵庫の方がブランド名や馴染み深いという理由で購入されることはありません.
情報の完全性
市場で取引されている製品の品質や価格などの情報を市場に参加しているすべての経済主体がもれなく全て知っていなければなりません.
参入退出の自由
新規企業の市場への参入の自由,既存企業の市場からの退出の自由が保証されていなければなりません.たとえば,過当競争防止のためにタクシー台数を制限してはならないことを意味します.

これら完全競争市場の条件は現実では満たされていないような気がします.しかし,程度の差が僅かであれば,満たされる条件もでてくるでしょう.理論分析では,むしろ完全競争市場をベンチマーク(基準)として考え,どの条件が満たさなければどんなことが起こるのかを比較することに重点を置いています.